2015年6月30日火曜日

自動運転、IoT、人工知能、いずれにも必須のMEMS技術

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20150629/425543/

MEMS(微小電子機械システム)」への注目度が高まっている。自動運転IoT(Internet of Things、もののインターネット)、人工知能やディープラーニングといった、現在ホットな技術分野の実用化に伴い、MEMS技術で造るセンサーの需要が増すと予測されているからだ。米国では2023年までに1兆個ものセンサーを使用する社会を目指す「Trillion Sensors」というキャンペーンもスタートした。こうした需要予測に加えて、技術的な進化も加速している。

 「技術者塾」において「車載センサーやIoTデバイスに革新をもたらすMEMS技術」〔2015年7月21日(火)〕の講座を持つ、東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻教授の田中秀治氏に、今MEMS技術を押さえるべき理由や、同技術の可能性などについて聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──MEMS技術は今、なぜ求められているのでしょうか。
田中氏:スマートフォンやゲーム機器を見れば分かる通り、今、製品の価値を決めているのは、必ずしも演算能力ではありません。現在の製品は、ユーザー・インターフェースが付加価値のかなりの部分を占めており、それを支えるセンサーの役割が極めて重要です。
 健康志向の高まりから現在、さまざまなセンサーが搭載されたリストバンド型・腕時計型の情報機器を使い、自らの活動量を把握して健康維持や体調管理に利用している人が先進国を中心に増えています。自動車では目下(もっか)、環境性能と安全性能が最も重要な付加価値となっています。燃費向上はセンサーによる高度な制御によるところが大きい。エアバッグやアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)、高度な車体制御といった安全性能もセンサーに大きく依存しています。実は、こうしたセンサーの多くがMEMS技術で造られているのです。MEMSを使わずに生活している人はほとんどいないと言っても過言ではありません。
 そのため、MEMSを使いこなすことは、今後、ますます重要になります。すると、MEMSのユーザー、すなわち、アプリケーションの開発者は、MEMSメーカーと話をする機会が増えていくことでしょう。その際に、MEMS技術を把握している方が、製品開発をスムーズに進められます。
 MEMSの性能は、MEMSの機構や構造、材料だけではなく、ASIC(アプリケーション向け集積回路)によるところが大きい。そのため、回路設計者やLSI技術者にとってもMEMSとの接点は一層重要になると思います。特に、今後はMEMSとASICの集積化が進むと思われ(関連記事)、回路設計とプロセスの両方の観点で、LSIメーカーにはMEMS技術の素養が求められるようになります。
 このように、MEMS技術を学ぶべき人は、MEMSに直接関わる技術者や研究者だけではなくなってきているのです。

──MEMS技術が今後ますます必要となる背景には何があるのですか。
田中氏:技術革新が進み、製品をインターネットで結ぶ技術であるIoTへの期待が膨らんでいます。IoTを実用化するには、さまざまな情報を取得するためにセンサーが必要で、そのセンサーの多くがMEMS技術で造られています。従って、IoTが普及すれば、その分、MEMSの数も増えることになります。事実、2023年までに1兆個のセンサーが使われる社会を目指す「Trillion Sensors」というキャンペーンが米国を中心に盛んに行われています。
 加えて、今、人工知能やディープラーニングの研究がブームを見せています。ここにもMEMS技術の潜在的な需要があります。人工知能やディープラーニングをハードウエア側から後押ししているのが、高度化されたFPGA(Field Programmable Gate Array、注:ユーザーがプログラミングすることで1個から造れるデジタルLSIの一種)です。これにより、音声認識がさまざまな機器で利用できるようになると考えられます。自動翻訳によって言語の壁が低くなるのも遠い未来ではないかもしれません。このとき、音声の取り込みに使われるのがMEMSマイクロフォンです。音声認識では、ハンドセット(受話器)を持って行う電話の会話とは異なり、マイクロフォンに2倍以上の高性能が求められます。
 自動車分野では自動運転の研究開発が進み、今後、段階的に実用化が進んでいくと思われます。自動運転には、さまざまなセンサーが必要となりますから、必然的にMEMSの需要が増えていくことでしょう。一例を挙げると、自動運転には従来よりも桁違いに高性能な角速度センサー(ジャイロセンサー)が必要です。こうした高性能ジャイロセンサーはロボットドローン(無人航空機)にも使われます。自動車や民生用ロボットに数百万円もする高額なリング・レーザー・ジャイロを使うことはできないため、現在よりも桁違いに高性能化されたMEMSジャイロが必要になるはずです。
──MEMS技術を活用する上でのキーポイントは何ですか。
田中氏:どういう立場にあるかで、当然、押さえておくべきキーポイントは異なります。また、MEMSはとにかく多様であり、何か1つの標準技術を押さえればよいというわけにはいきません。LSIであれば、設計ツールや設計受注企業、CMOSファウンドリー、パッケージング企業などが、それぞれの部分で標準的な技術やノウハウを蓄積しており、ある程度、それをお金で買うこともできます。しかし、それすら簡単ではないのがMEMSです。まずは、そのことを理解することがキーポイントの1つと言えるでしょう。

──「技術者塾」では、どのようなポイントに力点を置いて説明する予定ですか。また、そこに力点を置く理由を教えてください。
田中氏:受講者の方は、立場も興味もバラバラだと思いますので、導入的な内容から専門的な内容まで解説する予定です。いずれのレベルの内容でも、教科書や論文を読んだだけ、あるいは講演会に参加しただけでは簡単には分からないポイントを含めて説明します。既存の本や論文、講演などでは「本当に重要なこと」にはあまり言及されていないものですから。
 また、単に論文に載っている技術を淡々と紹介・説明するのではなく、過去の経緯や歴史を踏まえながら、MEMS専門家としての私の意見を交えて解説したいと思います。もちろん、私の意見が必ずしも正しいというわけではありませんが、次々に技術を紹介されても、その評価が分からなければどうしようもありませんので。

──想定する受講者はどのような方ですか。
田中氏:先に述べた通り、今後、MEMS技術の重要性はますます増していきます。MEMSの事業規模は世界で力強く成長しており、その成長は今後も続くと予想されています。多くのビジネスチャンスがあるはずで、ぜひ、日本企業に成功を収めて欲しいと思っています。
 こうしたビジネスチャンスをつかむべく、MEMSに関わる技術者や研究者はもちろん、事業・開発戦略部門の方や、技術営業の方などに参加いただけると幸いです。特に、中堅企業の技術者や研究者のうち、日々の業務が忙しくて国際会議などで最新技術に触れる機会がなかなかない方や、社内の事業再編や新規事業立ち上げで新たにMEMSに関わるようになった方には最適なセミナーになると思っています。
 本セミナーを受講したからといって、すぐにMEMS設計やMEMSプロセス、あるいはMEMS活用のスキルが身につくというわけではありません。しかし、専門的な事項を含めて全体像を把握でき、次にどのようなアクションを取ればよいかが分かるようになると思います。セミナーの終了後には名刺交換をさせていただき、希望があれば個別にフォローアップします。

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