2009年8月17日月曜日

すぐ使える文章の技術

レベル1 正しい文章を書く
レベル2 読みやすい文章を書く
レベル3 文章の価値を高める

編集部のノウハウを一挙公開読みやすさを高めるチェックポイント20
図1 正確で分かりやすい文章にするための20のチェックポイント
コピーするなどして,執筆・推敲時に活用して欲しい


図2 主語と述語を正しく対応させる図2 主語と述語を正しく対応させる




図3 正しい係り受けにする図3 正しい係り受けにする

正確で読みやすい文章にするには,推敲を重ねることが欠かせない。その際,必ずチェックすべきポイントがある。記者がこれまで培ってきたノウハウを基に,20項目にまとめた。

 「どうしてスラスラと読める文章を書けないのだろう」,「これで正確に伝わるだろうか」,「もっと分かりやすくできると思うのだが」——。

 主題や構成をしっかり決めたとしても,実際に文章を書く段階になれば,悩みは尽きない。

 実は表現に多少の手を加えるだけで,文章の正確さと分かりやすさは大きく向上する。そのためには,手を加えるべき箇所を見つけるチェックポイントを押さえておくことが肝要だ。闇雲に文章をチェックしても,どこをどう直すべきかが分からないことが多いからだ。

 ここでは当編集部が培ってきたノウハウを基に,ビジネス文書の執筆・推敲時に役立つチェックポイントを紹介する。20項目を厳選して,簡単かつ優先度の高いものから,「正確な日本語を書く」,「無駄をそぎ落として読みやすくする」,「文章の価値を高める」という,3段階のレベルに整理した(図1[拡大表示])。

 いずれも文章を読みやすくするための「表現」に関するチェックポイントだが,「内容」を充実させることにもつながる。ITエンジニアである読者には容易に推察できるはずだが,読みやすいソースコードほど,バグや不適切なロジックを発見しやすい。それと同じで,文章を読みやすくすると“論拠の乏しさ”や“論理的でない論旨展開”など「内容」に関する問題点が浮かび上がるからだ。

 そして,この「内容」に関する問題点を修正するために文章を書き直す。すると,また「表現」に関する問題点が生まれる。そうして「表現」と「内容」に関する問題点の修正を繰り返すことで,文章の価値が高まっていく。これが推敲を「重ねる」という意味である。

 以降で,20項目のチェックポイントを見て行くことにしよう。

 文法的に正しい日本語を書くこと。これは,文章を書く上での大前提である。

 「日本語として正しいかどうかなんて,いくら何でもチェックポイントとして当たり前すぎる」と思うのではないか。しかし意味は分かる文章でも,日本語として不適切な表現が見つかるケースは,決して少なくない。

 まずチェックして欲しいのが,主語と述語の対応関係である(チェックポイント(1))。主語と述語(複数の単語から成り立つ場合は“主部”および“述部”とも言うが,ここでは主語と述語で統一する)は,文における最も基本的な構成要素だ。主語と述語の対応が正確に取れていないと,文として成立しない。

 図2[拡大表示]に示した「プロジェクト・マネジャーの役割は,納期やコストを管理する」という文は,あるITエンジニアが実際に書いたものだ。この文の主語は「役割は」,述語は「管理する」である。「役割は…管理する」という対応関係は明らかにおかしい。正しくは「役割は…管理することだ」である。もしくは「プロジェクト・マネジャーは…管理する」とすべきだ。推敲を怠ると,このレベルの間違いが容易に起こり得る。

 もう1つ例を挙げよう。

新しい業務プロセスは,各支店の購買担当者が仕入れ発注を行う。

 意味は分かるが,ギクシャクした感じがしないだろうか。この文の問題点は,「新しい業務プロセス」が一見,主語に見えてしまうことである。これが主語だとすると,述語に当たる部分が存在しない。この文の本当の主語は「購買担当者」である。「新しい業務プロセス」が主語に見えてはいけない。そこで「新しい業務プロセス」に続く助詞の「は」を「では」に変えることによって,主語と述語の対応関係を明確にする。

 「正しい対応関係を守る」という意味では,特定の言葉で受けなければならない接続詞や副詞の使い方にも注意しよう(チェックポイント(2))。例えば,「なぜなら」は必ず「からだ(からである)」で受けなければならない。「なぜなら,メリットが大きい」という文は間違いだ。「なぜなら,メリットが大きいからだ」にすべきである(ただし,「なぜなら」は省略できる場合が多い)。他の例として,「全然~ない」や「決して~ない」,「必ずしも~ない」,「なぜ~か」,「一体~か」,「もし~なら」なども挙げられる。プロのライターでも意外と見落としがちなポイントなので,気をつけて欲しい。

係り受けが正しいか

 修飾語と被修飾語の係り受けに関する間違いも多い(チェックポイント(3))。その例が図3[拡大表示]に示した文である。書き手は「不備がある修正機能を改良する」という内容を伝えようとした。しかし「不備がある登録情報の修正機能を改良する」という文では,「不備がある」が「登録情報」に係っているように見える。この場合は,「不備がある」の後ろに読点(,)を打って,「登録情報の修正機能」がひとまとまりであることを示す。

 文章の途中で,用語を変えてしまうこともよくある間違いだ(チェックポイント(4))。例えば文章の冒頭では「入力」と表現しているのに,途中から「登録」や「エントリー」に変えてしまっているようなケースである。

 表現にバリエーションを持たせたつもりかもしれないが,文章を分かりにくくするだけだ。読み手は違う用語が出てくる度に,「なぜここで表現が変わったのか,違うことを指しているのだろうか」と考えてしまう。同じ意味を持つ用語は,必ず統一すべきである。

 時制の間違いにも注意しよう(チェックポイント(5))。当たり前のように聞こえるかもしれないが,過去の出来事を現在形で書いてはいけない。

 例えば,次のような文がある。

従来の問題は,在庫が過剰なことである。これを解決した。

 「在庫が過剰なこと」は過去の話だ。そのため語尾を「である」から「だった」に変えなければ情報を正確に伝えていないし,後ろの「解決した」と時制が一致しない。

 紀行文やルポルタージュなどでは,過去の出来事をあえて現在形で表現することがある。これは臨場感を持たせたり,文章のリズムを整えたりするためだ。だがビジネス文書では,正確さと分かりやすさを優先すべきである。過去,現在,未来の表現は,出来事が発生した(する)時点に合うように,正しく使い分けよう。

 チェックポイントには載せなかったが,誤字や脱字,慣用句の用法に関する間違いも頻繁に起こる。ワープロソフトや,かな漢字変換ソフトの校正機能を活用したり,辞書を引いたりして,それらのミスを防ぐようにすべきである。


 日本語としては正しいが,言い回しや言葉遣いが冗長なため,スムーズに読み進められない文章がある。どうしたら「流れるように読み進められる文章」を書けるのだろうか。

 それを実現するために必要なチェックポイントは数多く存在する。ここではその中から,基本的なものを選び出して紹介する(前編の図1のLevel2)。

1つの文が長くないか

 まず1つの文章をできるだけ短くしよう(チェックポイント(6))。

 「プロジェクト・マネジャーが計画の作成や進ちょく管理,ボトルネックの分析といった業務に利用するプロジェクトマネジメント・ツールは,一昔前までITベンダーの間で導入が進まなかった」(図4[拡大表示]左)という文がある。これを読んで,すぐに意味が分かるだろうか。

 この文の骨格となる主語と述語は,「プロジェクトマネジメント・ツールは」と「あまり利用されなかった」である。だが「プロジェクトマネジメント・ツール」にかかる修飾語の中にも主語・述語の関係があるため,文の構造が分かりにくい。

 このように,主従関係にある複数の主語・述語の組み合わせを含む1つの文を「複文」と言う。複文は2つ以上の文に分けると読みやすくなる。図4左の悪文と右の2つに分けた文を見比べれば,読みやすさに大きな違いがあることが分かるだろう。

 文が短いほど,読み手は意味をつかみやすい。執筆・推敲の際は,「この文を2つに分けることはできないだろうか」,「この形容詞や副詞は削れないだろうか」といった具合に,できる限り短い文にすることを心がけるべきだ。

分かりやすい語順か

 図5[拡大表示]の左にある,「SCMシステムを取引先とともに商品在庫量を削減するため導入する」という文を見て欲しい。「こんな分かりにくい語順には普通しない」と思うかも知れない。しかし思いつくままに文章を書いていると,ついこういう語順にしてしまいがちである(チェックポイント(7))。

 それには理由がある。私たちは文を書くとき,無意識のうちに,強調したい語句から並べていく傾向があるのだ。図5左の文の場合,書き手にとって最も強調したい語句は「SCMシステム」。次が「取引先とともに」,「商品在庫量を削減するため」だった。強調したい順にそのまま頭から並べていったら,こうなったというわけだ。

 日本語では,様々な語順で文を書ける。そのため書き手はあまり語順を意識することがない。しかし語順は,文の分かりやすさを大きく左右する。「主語と述語を近づける」,「目的語(~を)を述語(~する)のすぐ前に配置する」,「長い修飾語は短い修飾語の前に配置する」といった原則をふまえ,一番分かりやすくなる語順を探そう。

 図5左の文は,原則に従って「商品在庫量を削減するため,取引先とともにSCMシステムを導入する」と直すと,ぐっと分かりやすくなる。

専門用語に説明があるか

 専門的なIT用語を何の説明もなく使うべきではない(チェックポイント(8))。そうした用語を使う際には,読み手の知識レベルを想定した上で,説明を加えたり,場合によっては平易な言葉に置き換えたりすることが必要だ。例えば,単に「CMMIでは5段階のレベルが決まっている」と書くのではなく,「ソフトウエア開発組織の実力を評価する基準であるCMMIでは…」という具合に説明を加える(図6[拡大表示])。

 日ごろから曖昧なイメージのままでIT用語を使っていると,文章を書くときに明快な説明を入れるのは難しい。文章には書き手の知識レベルが表れることを,肝に銘じておこう。

 専門的なIT用語だけでなく,特定の企業や組織内だけで通用する用語も,説明なしに使うべきではない(チェックポイント(9))。ITエンジニアの文章には,ソフトウエアやハードウエアの製品名,企業の社内システムの名称などを,何の説明もなく使っているケースがよくある。社内文書ならまだしも,外部の人に向けて文章を書く場合は,「読み手はその製品やシステムを知らない」ことを前提にするべきである。

二重否定になっていないか

 「しかし」や「だが」といった逆接の接続詞を,短い文章で繰り返して使っていないだろうか(チェックポイント(10))。

 例えば,次のような文章である。「この画面構成はおおむね顧客のニーズを満たしている。しかし改善の余地がある。だが納期が迫っているため,このままでよいと考える」(図7[拡大表示]左)。このように「しかし」や「だが」を連続して使うと,たとえ結論を明記していても,読み手にすっきりと伝わらない。見方を変えれば,逆接の接続詞を減らすことが,論旨展開の整理につながる。図7右にその例を示したので,参照して欲しい。

 同様に,二重否定も文の意味を分かりにくくする(チェックポイント(11))。二重否定とは,否定した内容をさらに否定することである。例を挙げてみよう。

IT投資の費用対効果について,興味を持たない経営者はいない。

 この程度なら決して分かりにくいとは言えないが,回りくどい感じが残る。これを肯定文に直すと,

経営者は誰でも,IT投資の費用対効果について興味を持つ。

となる。このように二重否定の文は,肯定文に直したほうが意味をつかみやすい(ただし意図的にテクニックとして二重否定にする場合は別)。

受身形は極力使わない

 チェックポイント(12)は,代名詞が指し示す内容を明確にするというもの。「これ」や「それ」といった代名詞が何を指しているかが明確でないと,読みにくくなる上に,読み手に間違った解釈をさせる可能性がある。代名詞が何を指し示しているかが分かりにくいと思ったら,具体的な内容に置き換える。「そうした」や「こうした」という言葉も同様だ。

 誤解を防ぐという意味では,受身形を極力使わないようにすることも大切である(チェックポイント(13))。文章を書き慣れていない人は,受身形を多用してしまう。しかし受身形を使うと,動作の主体があいまいになってしまう。しかも,リズムが悪くなって読みにくさの原因にもなる。例えば「Select文を入力すると,データが検索される」という文は,「Select文を入力すると,データを検索できる」という文にするべきである。

同じ語尾を繰り返していないか

 テンポよく文章を読んでもらうためには,語尾に変化をもたせるとよい(チェックポイント(14))。

 次の文を読んで欲しい。「電子入札とは,インターネットを使って公共事業の入札を行うことだ。最大の目的はコストの削減だ。公共工事全体に適用すれば,年間2000億円以上のコスト削減になる見通しだ」(図8[拡大表示])。語尾で「~だ」を繰り返しているため,文章のリズムが悪く,ぎこちない印象を受ける。

 解消法は簡単である。「だ・である調」ならば,「~だ。~である。~だ。」のように同じ語尾が連続しないようにする(図8)。

 このチェックポイントについては,執筆段階であまり神経質になる必要はない。あとで文を削ったり,新たな文を挿入したりすれば,同じ語尾の繰り返しが発生することがあるからだ。推敲時に,最後の仕上げとして直すようにしよう。

 1つの文に同じ言葉が繰り返し登場することも,テンポを悪くする原因になる(チェックポイント(15))。例えば「データ分析システムを導入する際には,データ分析システムを使う目的を明確にする必要がある」という文章だ。この文では,後にでてくる「データ分析システム」を「それ」に置き換えるか,「データ分析システムを使う」を取り去る。

 助詞の「の」を3つ以上つなげることも,読みにくさにつながる(チェックポイント(16))。「ERPの導入の問題の概要」のように「の」をつなげた言葉は係り受けが曖昧になるため,すぐには意味を取りづらい。連続して使う「の」は,多くても2つまでにとどめるべきである。



図9 具体的な事例やエピソードを盛り込む
図9 具体的な事例やエピソードを盛り込む
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 レベル3では,「文章の価値を高める」ためのチェックポイントをまとめた。読み手の興味を引きつけるような表現にしたり,信ぴょう性や説得力を高めるデータや事例などを盛り込んだりすることだ。これまでに挙げたチェックポイントとは違って単純に修正できるものばかりではないが,ぜひ実践して欲しい。

途中で疑問形の文章を入れる

 まず途中で疑問形の文章を入れて,読み手の興味を引きつけるという表現方法がある(チェックポイント(17))。

 ビジネス文書のように,何かを説明する文章では,どうしても表現が単調になりがちだ。「次に○○について述べる」のような繰り返しでは,読み手が途中で飽きてしまう。

 そんなとき,疑問形の文章をはさみ込むという手が有効である。典型的なのは,問題点や課題を挙げた上で「では,どうしたらよいだろうか」や「原因は一体なんだろうか」のようにつなげることだ。「次に解決策を述べる」や「原因を挙げる」と書くよりも,メリハリが出て,読み手の興味を引きつけられる。これは講演者が聴衆に質問して,興味を引きつけるのと似たやり方である。

 ほかにも「こんな疑問が沸いてこないだろうか」や,「ここできっとこう思うはずだ」のように,読み手の思考を誘導するような書き方も効果的だ。

具体的に解説する

 説明の具体性を高めるためには,できるだけ事例やエピソードなどを盛り込むようにしよう(チェックポイント(18))。ITを使ったマネジメント手法やソリューションなど,ITエンジニアが文章を使って説明する事柄の多くは,人によって解釈が異なる抽象的な内容であることが多い。それだけに,できる限り具体的な説明を加えることが重要だ。

 CRMシステムを説明する場合を例にとってみよう。単に「顧客情報を収集して管理し,最適な対応を実現する」と書くのでは,読み手が具体的なイメージをつかめない。そこで「小学生の子供を持つ顧客に絞り込んで,学資保険のダイレクトメールを送れる」のように事例を挙げて説明するとよい(図9[拡大表示])。

 具体性が必要なのは,主張の論拠を示すときも同じ。論拠の裏付けとなる具体的な材料を示すことが肝要である。できるだけ数字やデータを盛り込んで,説得力や信ぴょう性を高めて欲しい(チェックポイント(19))。

 SCMシステムの導入効果を示すには,「市場動向への迅速な対応」や「大幅な在庫削減」のように抽象的な表現では不十分である。「週次での生産計画の見直し」,「平均在庫量を20%削減」のように,できる限り具体的に表現することで説得力が高まる。

 また単なる事実の羅列にとどめず,意義や理由を説明することも重要だ(チェックポイント(20))。例えば製品を説明する文章を書く場合,単に機能を羅列するだけでは不十分である。「その機能をどう実現しているのか」という仕組みを少しでも盛り込むと,読み手にとって理解しやすくなるし,印象にも残りやすくなるはずだ。


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