▼2度あった土用の丑(うし)の日に、スーパーのかば焼きを食した。まず一匹490円の台湾産、「二の丑」は3倍の値の愛知産。国内の養殖ブランドがおいしいのは当然として、輸入の品もいけた
▼食通が舌で書いたうなぎを味読すると、丑の日が何度あっても足りなくなる。作家の吉田健一は白焼きの茶漬けを推した。上等な吸い物のように、魚の味が海苔(のり)と山葵(わさび)に溶け合い、「海とも山とも付かない境地」と記す。天然物だろう
▼養殖と天然、実は兄弟姉妹の関係にある。南海で生まれた幼生はふらふらと潮に乗って北上する。ようじほどの稚魚は、沿岸で捕まれば養殖池に送られ、川を上ればやがて天然物と貴ばれる。何年かを生き延びた成魚は産卵のため再び海へ。「海とも山とも付かない」一生である
▼うなぎの養殖史は130年になるそうだ。沿岸にやって来る稚魚の量は70年代の1割ほどに減り、卵から育てる「完全養殖」が待たれる。ところが、産卵前後の様子がわからない。産卵場らしいマリアナ諸島沖で親を捕獲したものの、幼生の餌など謎は多い
▼かば焼きは養殖を頼り、養殖はその起点を自然界に頼る。子が育つ海、将来の親がすむ川、両者が行き交う河口付近が健やかでないと幻の魚になりかねない。夏の味覚は案外もろい皿の上にあると、心して味わいたい。
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