2009年12月7日月曜日

天声人語 2009年12月6日(日)付

子ども時代、一番のドキドキは運動会の駆けっこ、とりわけ号砲を待つ数分間だった。一緒に走る顔ぶれを横目で確かめ、「よくて3位」などと気を回すからさらに硬くなる
▼新学期の席替えにも淡い緊張が伴った。あこがれの君、苦手な子。班の顔ぶれによって、しばらくは登校の意気込みから違う。知らない名も多いクラス替えは運まかせだが、学級内の「当たり外れ」は鮮明だった
▼サッカーファンを一喜一憂させて、32チームが8組に分かれた。来年のワールドカップ南アフリカ大会の組み合わせ抽選。日本はオランダ、カメルーン、デンマークと同じ組だ。いずれも格上ながら「十分対応できる範囲」(岡田武史監督)という。当たりではないが大外れでもないらしい
▼くじは気まぐれだ。74年の西ドイツ大会で、地元西独はなんの因果か初出場の東独と同組になった。親善試合さえなかった両国の、最初で最後の公式戦は東が西を1対0で破る。大観衆は番狂わせに打ちひしがれ、スタジアムから地下鉄の駅まで沈黙の列が続いたという
▼しかし、この負けが西独に幸いする。2位で勝ち上がった結果、手ごわいブラジルやオランダと当たらずに決勝まで進み、優勝候補のオランダを下して頂点に立った。くじはドラマの始まりでしかない
▼サッカー好きなら、組み合わせ表を見ながら延々と話し込めるだろう。日本の布陣や作戦を論じるもよし、他の組や先の展開を読むのも楽しい。半年も前にくじを引く理由が分かる気がする。長くて熱い「前夜祭」の幕開けである。

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