▼「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」代表荒川不二夫さん(82)が語っていた。8年の介護の末に妻を送り、今は息子の世話をする人である。「男性は家事に不慣れだし、弱音も吐きづらい。介護疲れ、孤立感、経済的な苦しさは虐待や心中にもつながります」
▼寝たきりの妻(60)の首を包丁で刺し、10日間のけがをさせた被告(63)に、山口地裁で執行猶予つきの判決が言い渡された。懲役4年の求刑に対し、判決は「介護疲れ」を理由に実刑を退け、保護観察を添えた
▼結婚2年で脳出血に倒れた妻を、被告は13年間、一人で介護してきた。死にきれずに自首したという。法廷では「僕が好いた人。今でも妻が好きです」と声を詰まらせ、施設に移された妻も厳罰を望まなかった
▼裁判長は「裁判員の意見」を読み上げた。「生きがいを見つけ、肩の力を抜いて生きて下さい。周りと協力して見守り、二度と悲しませないように」。介護がひとごとでない裁判員もいた。事件当事者の身になる「素人裁き」の温(ぬく)もりが、優しい判決に残る
▼元気だった妻との2年に劣らず、続く13年も今では宝物だろう。苦楽を共にしたその人は、ひとつ屋根でなくても同じ秋空の下、幸いにも呼吸を続けている。朝日俳壇からも引く。〈妻逝きて介護なき日の残暑かな〉渡辺憲司
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